前回の記事では前から気になっていたGone West(ゴーンウェスト)系の現状と特徴を調べてみましたが、2018年の有力馬の一頭にこの系統の血を引くタワーオブロンドンがいるということで、その父Raven’s Pass(レイヴンズパス)についてまとめてみたいと思います。
昨年タワーオブロンドンは京王杯2歳ステークス(GⅡ、東京競馬場、芝1400m)でカシアス(父キンシャサノキセキ)以下を退けたあと、2歳チャンピオンを決める朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ、中山競馬場、芝1600m)ではダノンプレミアム(父ディープインパクト)の圧倒的な走りの前に3着に沈みましたが、これからどういった走りをするか予想する意味でもどういった馬なのか注目です。
スポンサーリンク
Contents
Raven’s Passの血統
2005年 アメリカ産。
父
Elusive Quality |
父の父
Gone West |
Mr.Prospector | Raise a Native | |
Gold Digger | ||||
Secrettame | Secretariat | |||
Tamerett | ||||
父の母
Touch of Greatness |
Heros Honor | Northern Dancer | ||
Glowing Tribute | ||||
Ivory Wand | Sir Ivor | |||
Natashka | ||||
母
Ascutney |
母の父
Lord at War |
General | Brigadier Gerard | |
Mercuriale | ||||
Luna de Miel | Con Brio | |||
Good Will | ||||
母の母
Right Word |
Verbatim | Speak John | ||
Well Kept | ||||
Oratorio | Fleet Nasrullah | |||
Classicist |
Raven’s Pass(レイヴンズパス)は2005年にアメリカで生産されヨーロッパで走った競走馬となります。
まず父系について見ていくと、父Elusive Quality(イルーシヴクオリティ)はゴーンウエスト系の中では最も成功している種牡馬となります。
このイルーシヴクオリティはアメリカで走り、現役時代は20戦9勝(9-3-2-6)と安定した成績を残していますが、9勝中7勝が未勝利・一般競争となり、目立った勝ち鞍はGⅢ二勝のみでした。GⅠには四度出走していますが、ウッドバインマイル(GⅠ、芝8F)の4着が最高にとどまり、競走馬としては一線級ではありませんでした。
ただ1998年のポーカーハンデ(GⅢ、芝8F)では当時の芝1600mの世界レコードとなる1分31秒63を記録しており、高いスピード能力があったことを示しています。反面マイルのレースになると1400m以下のレースに比べて大崩れすることもあり、距離に対してある程度壁があったようです。
このイルーシヴクオリティ産駒の活躍馬として何と言っても有名なのがSmarty Jones(スマーティジョーンズ)です。
アメリカ三冠レースの最後のベルモントステークスで2着に敗れるまで連勝を重ね、8戦7勝(ケンタッキーダービー、プリークネスステークスなどを勝利)という素晴らしい成績を残しています。
そしてヨーロッパで活躍したイルーシヴクオリティ産駒の代表格がこのレイヴンズパスとなります。
イルーシヴクオリティ産駒は総じてマイル前後の距離を中心に活躍馬を送り出しており、アメリカだけでなくヨーロッパでも適性を示しているのが特徴ですが、他のゴーンウェスト系種牡馬や父の現役時代の成績に比べて多少ですが底力を感じさせる馬が出ています。
2歳戦から3歳戦にかけて活躍している馬が多く見受けられるのも特徴ですね。
母系を見てみると母Ascutney(アスカットニー)は現役時代アメリカで走り11戦2勝でミエスクステークス(GⅢ)勝ちがある程度の中級馬であり近親に目立った活躍馬は見当たりません。
母の父Load at War(ロードアットウォー)はかつてイギリスで国人的人気を誇った名馬Brigadier Gerard(ブリガディアジェラード)にさかのぼる最近では珍しい血統ですが、アルゼンチンで生まれてしばらく走ったあとアメリカで競争生活を送っており、マイルから中距離を得意としていた(17戦10勝で主な勝鞍にサンタアニタH(GⅠ)など)ようです。
フェアトライアル系×リボー系という配合などからスタミナと底力型という印象を受けます。
更に母系をさかのぼるとVerbatim(ヴァーベイテム)という見慣れない種牡馬の名前がありますが、プリンスキロ系種牡馬でPrincess Rooney(プリンセスルーニー)というアメリカ殿堂入りしたほどの名牝を出しています。
総じて異系色が強い母系と言えます。あくまで個人的なイメージですがこの系統は母系に入って輝き底力と丈夫さを兼ねそなえているという印象です(ただ最近はほとんど見なくなり少し古い感じがしますね)。
父系がスピードの主張の強いタイプで母系が異系色が強くたまに大物を出す意外性のある血統ということになりますが、全体的な印象としては父系、母系ともに母系に入って存在感のあるタイプであり、こういったタイプは総じて父系として発展しにくい、身体能力を武器とするタイプが多くなります。
競走成績
レイヴンズパスはアメリカ産馬ながら2歳時にイギリスでデビューを迎えますが、当初は期待されていなかったもののデビューから3連勝を飾ります。その後ヨーロッパの2歳王者決定戦デュハーストステークス(芝1400m)ではNew Approach(ニューアプローチ、父Galileo)の3着に敗れています。
明けて3歳になってからはこの年の英・愛2000ギニーの両方を勝利することとなるHenry the Navigator(ヘンリーザナビゲーター、父Kingmambo)の前にマイル戦で3度敗れますが、ヨーロッパ最後のレースとなるクイーンエリザベス2世ステークス(芝1600m)では見事雪辱し、GⅠ初勝利を収めています。
そしてその年の最後のレースに選んだのがアメリカ競馬の最高峰とも言えるレースであるブリーダーズカップ・クラシック(この年はダートではなくオールウェザーの2,000m)に参戦し、前述のヘンリーザナビゲーターだけでなく、前年の同レースの勝ち馬であり本命馬であったCurlin(カーリン、父Smart Strike)を破っています。ヨーロッパ調教馬のBCクラシックはアルカング以来15年ぶり二回目だったとのことで快挙と言えますね。
このレースで現役生活を引退し、アイルランドで種牡馬入となり現在に至ります。
通算12戦6勝(6-4-1-1)。
カーリンにも勝っており、競走成績は超一流と言えますね。
主な産駒
2009年からアイルランドで供用が開始されていますが・・・、なんと大物がいません。困ったぞ(笑)。
種牡馬入りして最初の種付け価格は約500万円だったことを考えると、全く期待されていないということはないと思うのですが、今までGⅠを勝った勝ち馬がいないようです(2018年10月になり、やっと勝ちました)。
Steeler(スティーラー)
母の父:Darshaan(Shirley Heights系)
2010年産。
12戦3勝で二歳時にロイヤルロッジステークス(GⅡ、芝1600m)に勝利してGⅠのレーシングポストトロフィーは3着に入っていますが、長期休養明けの四歳以降は6戦0勝(非重賞レースで3着に一回入ったのみ)とまったくいいところがなく、二歳の時に6戦3勝2着二回3着一回と活躍しただけの馬です。
タワーオブロンドンと同じくドバイ系の馬のようですが、母系も同じShirley Heights(シャーリーハイツ)の系統です。
Secret Number(シークレットナンバー)
母の父:Alleged(リボー系)
この馬もスティーラーと同じ2010年産でゴドルフィンの馬のようですがセン馬ですね。
確認できたところだと2012年から2016年まで走り14戦5勝(5-2-2-5)。デビュー戦こそマイル戦を走っていますが、ほとんどが2000m以上のレースに使われています。
主な勝ち鞍は2013年のカンバーランドロッジS(GⅢ、イギリス、芝12F)ですが、有名どころだとUAEダービー(GⅡ、UAE、オールウェザー1900m)の三着がありますね。
最後のレースとなった2016年のメルボルンカップ(GⅠ、オーストラリア、3200m)こそ21着と大敗していますが、あとはこの血統らしく惜敗が多いです。
この馬血統を調べてみると母の兄にヒシアケボノ、弟にアグネスワールドがおり日本で走ったほうが面白かったような気がしますね。
Malabar(マラバー)
2012年産の牝馬。母の父はブラッシンググルームが産み出した名馬Nashwan(ナシュワン)。
主にイギリスとアイルランドで走り通算12戦3勝(3-1-0-8)。
主な勝ち鞍に二歳時のプレステージS(GⅢ、イギリス、芝7F)と三歳時のサラブレットS(GⅢ、イギリス、芝8F)があります。
英1000ギニーで十三頭中四着(七番人気)に入っているのでそこそこの馬だったようですが、この後の愛1000ギニー以降はサラブレットS以外は大敗しており、夏以降は平凡な馬になっていますね。
Via Ravenna(ヴィアラヴェンナ)
母の父:シングスピール(Sadler’s Wells系)
2014年産の牝馬で2017年のみ走っていますね。
通算成績5戦2勝(2-1-0-2)。主な勝ち鞍にアンプリューダンス賞(GⅢ、フランス、芝1400m)。
二番人気で挑んだ次戦フランス1000ギニー(GⅠ、フランス、芝1600m)は七着に敗れたものの、引退レースとなった?ロートシルト賞(GⅠ、フランス、芝1600m)はRoly Poly(ローリ―ポリー)の僅差の二着に入っていますね。
次のRoyal Marine(ロイヤルマーリン)と同じく母の父はシングスピールですが親戚関係ではないようです。
今のところレイヴンズパスの代表産駒はこの馬かロイヤルマーリンといったところですね。
Royal Marine(ロイヤルマーリン)
母の父:シングスピール
2016年産の牡馬。この馬もゴドルフィンですが現役馬ですね。
イギリスの未勝利戦を勝利した後のフランスの二歳王者決定戦であるジャンリュックラガルデール賞(GⅠ、フランス、1600m)を2018年に勝利しており、レイヴンズパスにとっては初めてのGⅠホースとなります。
ただイギリスの2000ギニー(GⅠ、イギリス、1マイル)には挑んだものの13着と大敗しています。
2000ギニーの前哨戦であるクレイヴンS(GⅢ、イギリス、1マイル)も八頭立ての四着に敗れており、能力的にはイマイチ信頼できませんね。
2000ギニー以降も大敗が続いています。
タワーオブロンドン
母の父:Dalakhani
主な勝鞍は京王杯2歳ステークスで朝日杯FSはダノンプレミアムの3着。
このイルーシヴクオリティの直系の失敗ぶりを見ると少し成長力に疑問はありますが、この馬の場合近親に名馬ジェネラスやオースミタイクーンなどがおり、かなりの良血と言えます。まだ完全に底を見せたわけではないので見切るのは早いですが、血統的にはマイル前後がベストでしょうね。
調子のいいうちはまだ大きいところを勝つ可能性はありますが、一旦調子が落ちるとつらい感じがします。
産駒の特徴と傾向
スピード型のアベレージヒッタータイプ
日本ではほとんど産駒が走っていないため、血統構成などからの予想となりますが、レイヴンズパスはイルーシヴクオリティの血を引いているため超大物というよりも条件馬を多く送り出すタイプだと思われます。
これは昔からこの系統の共通点ではありますが、最近はQuality Road(クオリティロード)の系統からGⅠを複数勝つ馬が出ているものの、日本ではよりこの傾向は強まるでしょう。
基本的にGⅠよりもGⅡやGⅢ、オープンよりも条件戦で力を発揮するタイプだと思われますが、一瞬のスピードや決め手というよりも、身体能力で勝負するため取りこぼしは多くなると思われます。
あくまで弱い馬にしっかり勝つタイプであり、平均からスローペースの流れの中からスッと出てくるのが理想的な展開だと思われます。強引な競馬をするとそこまでのスタミナはないので大敗もあり得ますし、この系統の弱点はこの部分だと思います。
※ 2019年5月11日には京王杯スプリングC(GⅡ、1400m)でタワーオブローンドンが1分19秒4レコード勝ちしたところなどを見ると時計勝負には強いと思われます。
強い馬にはしっかり負ける
これはイルーシヴクオリティの系統の日本での傾向からや、海外の産駒などからも言えることですが、大レースはしっかりと(笑)大敗していますね。
GⅡやGⅢで善戦し、たまに勝ちながら大一番で負ける。調子がいい時は無視できませんが、基本的にはこの流れでしょう。
血統的には最後の踏ん張りが効くタイプではないと言えます。
一流馬は早い段階から素質を見せる
現在タワーオブロンドンが重賞戦線で活躍していますが、基本的に仕上がりの早いタイプであり二歳戦から結果は出すタイプでしょう。
また昔のミスタープロスペクター系のイメージほど早熟なタイプでもなく、調子さえ落とさなければ古馬になってもある程度の成績を残していく馬もいると思われますが、キングカメハメハ系のように三歳の秋になって馬が爆発的によくなるタイプではないでもないでしょう。
あくまで二歳時や三歳時のイメージで捉えておくと馬券は買いやすいかもしれません。
身体能力型で距離的限界がありそう
海外のレイヴンズパス産駒の成績を見ていると三歳の秋以降は全体的に不振です。
ただタワーオブロンドンが古馬になり好時計でしっかり京王杯スプリングC(GⅡ)を勝ってきたことを考えると、単なる早熟タイプではないというような印象も受けます。
海外の産駒の成績を見る限り元々能力的に少し疑問のあるタイプも多かったので、早熟というよりも能力不足で大成しなかったという見方もできます。
連勝を重ねるというよりも三着や四着を繰り返してたまに勝つというのは決め手にそれほど優れていないということですし、あくまでスピード能力を最大の武器として最後どれだけの余力を残せるかが重要な種牡馬だと思います。
そう考えるとタワーオブロンドンの古馬になっての活躍の説明もつきますし、もしかしたら1600mが基本的に長かったのかもしれませんね。
スポンサーリンク
NHKマイルCは1番人気になりそうですね。
今後の人生(馬生? )に注目です。
タワーオブロンドンはおそらく血統的に今がピークであり、段々と尻すぼみになっていくのでしょうが、どこまで追いかけるかの判断は重要ですね。
今回はメンバー的にもチャンスだと思うので、ここを勝って種牡馬入りを目指したいところですね。
そうなるとお父さんの輸入もあり得るような気がしますね。