今週行われる第37回ジャパンカップではアイルランドのオブライエン厩舎からIdaho(アイダホ)が参戦します。そこで今回はこのアイダホの父である世界的な種牡馬Galileo(ガリレオ)がどんな産駒を送り出しているのか考察してみたいと思います。
父Sadler’s Wells、祖父Northern Dancerにならぶ大種牡馬
ガリレオは今やヨーロッパでも不動のリーディングサイヤー(イギリス・アイルランド種牡馬ランキングで昨年まで7年連続1位!)ですが、今年の凱旋門賞の出走馬を見ると18頭(サトノダイアモンドなど日本馬が二頭いたので実質16頭)中6頭がガリレオ産駒ということで、僕も驚きました。
かつてガリレオの父であるSadler’s Wells(サドラーズウェルズ)や祖父のNorthern Dancer(ノーザンダンサー)もヨーロッパを中心に活躍馬を送り出し、時代を席巻した大種牡馬となりましたが、地元の英・愛種牡馬ランキングに限定するとサドラーズウェルズの通算14回というのはさすがにしても、世紀の大種牡馬と言われたノーザンダンサーがリーディングをとったのは意外なことに4回だそうです。
下級レースでの賞金が特に低いヨーロッパの競馬ではいかにGⅠホースを出すかがポイントにはなりますが、7連連続でリーディングをとる(恐らく今年も1位なんで8年連続になるのでしょう→2019年の段階で十年連続リーディングとなっています)ことがいかにすごいことかは、すでに一目瞭然でしょう。
つまりはガリレオはすでに語り継がれるべき歴史的種牡馬になっているわけですが、はたしてどんな産駒を送り出しているのかフォーカスしてみたいと思います。
※この記事は2017年11月頃に最初に書かれた記事ですが時代に併せて徐々に加筆・修正を行っていきます
Galileoの血統
1998年 アイルランド産
父
Sadler’s Wells |
父の父
Northern Dancer |
Nearctic | Nearco | |
Lady Angela | ||||
Natalma | Native Dancer | |||
Almahmoud | ||||
父の母
Fairy Bridge |
Bold Reason | Hail to Reason | ||
Lalun | ||||
Special | Forli | |||
Thong | ||||
母
Urban Sea |
母の父
Miswaki |
Mr.Prospector | Raise a Native | |
Gold Digger | ||||
Hopespringseternal | Buckpasser | |||
Rose Bower | ||||
母の母
Allegretta |
Lombard | Agio | ||
Promised Lady | ||||
Anatevka | Espresso | |||
Almyra F-No.9-h |
父サドラーズウェルズは現在ガリレオの他にも後継の種牡馬が活躍しており、祖父ノーザンダンサー産駒の中でも特にヨーロッパで成功・発展した種牡馬と言えます。
産駒の特徴はヨーロッパ向きの豊富なスタミナと決め手であり、特に大舞台での強さは他の種牡馬を圧倒します。逆に、逆にアメリカや日本などスピードが要求される馬場やダートを苦手としているのが一般的な特徴となります。
ただまったくスピードに欠けるわけではなく、近親には短距離からクラシックディスタンスまで対応できるスピードとスタミナ、底力を備えた名種牡馬Nureyev(ヌレイエフ)がいるように、潜在的にスピードも内在しています。全弟のFairy King(フェアリーキング)がマイルで強い馬を出したのもいい例でしょう。
また、最近はガリレオを経てFrankel(フランケル)がソウルスターリングを送り出したり、前回の記事で取り上げたKitten’s Joy(キトゥンズジョイ)がアメリカで大成功するなど、ヨーロッパ以外でも順応しつつあります。
ガリレオの母Urban Sea(アーバンシー)は牝馬ながら凱旋門賞を制した女傑(当時は牝馬の勝利はかなり久々だったはずです)ですが、レガシーワールドが勝利した1993年のジャパンカップにも出走(結果は8着)しています。(僕も初めて見たジャパンカップだったのでよく覚えている馬です)
通算成績は24戦して凱旋門賞を始めとして8勝していますが、競走成績同様繁殖成績が素晴らしく、今回のガリレオの他にも、イギリスのダービーをはじめとしてGⅠを6勝したSea the Stars(シーザスターズ)を送り出しています。シーザスターズも種牡馬として大成功していますね。
アーバンシーの父Miswaki(ミスワキ)はスピードを身上とするMr Prospector(ミスタープロスペクター)系の中でも珍しく距離をこなせるタイプであり、日本ではマーベラスクラウンがジャパンカップを制したり、母の父としてサイレンススズカ(宝塚記念)やザッツザプレンティ(菊花賞)を送り出すなど中長距離を中心にゴール前でのひと踏ん張りが特徴の馬が多いですね。母系はアホヌーラなどの血がありますがドイツの系統のようで異系色が強くなっています。
競走成績
産駒の傾向を知る意味でガリレオの競走成績を簡単におさらいしておきます。
通算成績8戦6勝 (6-1-0-1)
2歳時
未勝利戦(芝8f) 1着
3歳時
条件戦 (芝10f)1着
ダービートライアル(芝10f) 1着
英ダービー (芝12f10y)1着
愛ダービー (芝12f)1着
キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス (芝12f)1着
愛チャンピオンステークス(芝10f) 2着(勝ち馬ファンタスティックライト)
ブリーダーズカップクラシック(ダート10f) 6着(勝ち馬Tiznow)
愛チャンピオンステークスはキングジョージで下したファンタスティックライト(父Rahy)との再戦で叩き合いの末敗れていますが、この馬が2つ上だったことを考えるとしょうがない感じもしますね。ちなみにファンタスティックライトは日本に種牡馬として輸入されて失敗しています。
BCクラシックは完全に馬場が合わなかったんでしょうが、アメリカダート最高峰のレースで6着だと逆によく走ったほうだなと感じますね。
主な産駒成績
11年種牡馬生活で1年目から4位、リーディングにはすでに8回ついておりとてもじゃないが書ききれません。主だったところだけ書きます。
New Approach(ニューアプローチ)
母の父:Ahonoora(クラリオン系) 2005年産
兄に高松宮記念を勝ったシンコウフォレスト(父Green Desert)がいます。
2017の菊花賞に出走して13着だったベストアプローチ(青葉賞2着)の父ですが、現役時代は英ダービーをガリレオ産駒として初めて制すなど11戦8勝(2着2回3着1回)するなど活躍しました。
引退レースとなり勝利した英チャンピオンステークスでは10ハロンを2分00秒13のレコードタイムで制しています。ちなみにニューアプローチは2018年にMasar(マサ―)が英ダービーを制し、三代連続の英ダービー制覇を達成しています。凱旋門賞へは出走していません。
最近日本でも産駒を見ることも多いですね。
2018年のヨーロッパ種牡馬ランキングは20位。
Frankel(フランケル)
母の父:Danehill(ダンジグ系) 2008年産
ソウルスターリングやミスエルテの父として日本でもすっかり有名になったFrankel(フランケル)ですが、現役時代は英2000ギニーや英チャンピオンステークスなど14戦14勝と2000m以下で無敗のまま引退した名馬でした。
2011年と2012年二年連続してヨーロッパ(カルティエ賞)の年度代表馬に輝いています。レイティングでも高い評価を受け、歴史的名馬の一頭に数えられています。
ヨーロッパでも第一世代からGⅠホースが誕生(Cracksman、英チャンピオンステークス)しており、ガリレオ系の後継種牡馬として期待されています。
2018年のヨーロッパの種牡馬ランキングは5位でした。
凱旋門賞へは出走していません。
Nathaniel(ナサニエル)
母の父:Sliver Hawk(ロベルト系) 2008年産
Enable(エネイブル)がイギリスオークスを制してGⅠ初勝利をあげましたが、いまや世界最強牝馬の父として有名ですね。この馬もフランケルと同じ2008年産となります。
のちにキングジョージ6世&クイーンエリザベスSなどGⅠを二勝する一流馬でしたが、デビュー戦は二着に敗れています。ただ勝ったのがなんとフランケルであり引退レースとなったチャンピオンS(三着)の勝ち馬もフランケルでした。
全妹のグレートヘヴンズ(Great Heavens)は愛オークスを勝っています。
2018年の種牡馬ランキングは3位。
2019年にはChannel(チャネル)がフランスオークスを制しています。
Australia(オーストラリア)
母の父:Cape Cross(Danzig系) 2011年産
イギリスとアイルランドのダービーを制した他、英インターナショナルステークスを制するなど8戦5勝で引退しています。母はイギリス産の名牝ウィジャボード(Ouija Board)で、ジャパンカップでも3着に来たことがあります。
Found(ファウンド)
母の父:Intikhab(Roberto系) 2012年産
2016年の凱旋門賞を4歳時に制した牝馬ですが、この年は2着と3着もGalileo産駒でした(スゴイ!)。非常に2着が多かった(6-11-3-1)馬ですがブリーダーズカップターフも制しており軽い芝コースに対応できるスピードも備えていたことが分かります。凱旋門賞を制した時のタイムも2分23秒6という物凄いタイムです。
Highland Reel(ハイランドリール)
母の父:Danehill(Danzig系) 2012年産
今回ジャパンカップに出走するアイダホの全兄ですが、BCターフを制するなど実績では完全にこちらが上です。2016年の凱旋門賞でも2着に入った他、アメリカのセクレタリアトステークスを制したり、香港の香港ヴァーズも制するなどヨーロッパ以外の芝レースにも対応しておりスピードレースにも対応できることが分かります。
Minding(マインディング)
母の父:Danehill Dancer(Danzig系) 2013年産
2016年のヨーロッパ年度代表馬となった牝馬です。
三歳時に英1000ギニー、英オークスなど牝馬限定GⅠを四勝したあとは、牡馬との混合戦となるマイルGⅠクイーンエリザベス二世Sを制しています。
引退後はわざわざ日本に来日してディープインパクトと種付けされ、2019年に初仔となる牡馬が誕生しています。
産駒の特徴と傾向
さてすべての活躍馬を追っていくと膨大な量になりそうなので、他の馬はまた今度追記するとして、傾向を探っていきたいと思います。
目立つ母系のスピード血統
まず僕も活躍馬の成績を一通りチェックしてみて感じたのは、母系にDanehill(デインヒル)がはいっている活躍馬が目立つことですね。
また大雑把に言うと、母系は軒並みスピード血統が目立つことと、同じ系統のノーザンダンサー系の馬が多いというのも目につきます。
おそらくインブリードなどを意識してこのような配合になっているのかもしれませんが、ガリレオとスピード系種牡馬の母系との相性はかなりいいように感じます。まぁスタミナタイプの種牡馬にスピード型の父をもつ牝馬をつけるのは日本も同じですね。
凱旋門賞は1勝のみ
次に気になった点としては直仔の凱旋門賞との相性が悪いという点です。実際の所上位には来ていたり、孫世代のエネイブルが二度勝っているので相性は悪くないとも言えますが、英ダービーや各国のオークス、ブリーダーズカップなどの大きなGⅠを勝っている割に直仔だとファフンドが勝ったのみで1勝しかできていないというのは、もしかしたらスピードよりの配合になり過ぎている可能性はあります。
若干決め手が甘くなっているのかもしれませんね。
かつてはスタミナの権化のようなサドラーズウェルズの系統でしたが、代を経てその性質は変わりつつあるようです。
イギリス・アイルランドでは絶対的な強さを誇る
凱旋門賞であまり結果を残せていない反面、イギリスなどアップダウンの激しいコースでは圧倒的な成績を残しているのがガリレオ産駒ですね。
ニューアプローチやフランケルなどは素晴らしい成績を残していますが、そのほとんどが国内のレースでした。
地元で走っているガリレオ産駒の成績が比較的安定しているのに対して、フランスやアメリカで走っている産駒の成績はかなり不安定ですね。
やはり持ち味は重厚な馬場を走り切るスタミナとタフさにあるのだと思います。
英・愛のダービー馬がそれぞれのチャンピオンSあたりに出走してきたときは買いですね。
仕上がりは早く成長力もある
活躍馬の戦績を見てみると共通して言えるのは早い段階から活躍していることですね。
ヨーロッパの馬は最近古馬になってから活躍し始める晩成タイプの馬も少なくなりましたが、大体のガリレオ産駒の一流馬は早い段階から素質を見せ始め、古馬になってからも安定した成績を残しているようです。また全体的に成績の安定している馬が多くあまり大敗している馬もいないような気がします。
激走型というよりもレースに行って力をしっかりと出し切るタイプだと思いますので、調子や体調の見極めは大切でしょう。本命馬が人気に応えて勝つタイプなので人気薄は馬券から切っても大丈夫な感じがします。
サドラーズウェルズのイメージではなくヌレイエフのイメージが合うかも
最後にこのガリレオという種牡馬をどう判断するかですが、昔はサドラーズウェルズ系の産駒と言えば、日本に来るとかなりモッサリしていて、完全にスピードに欠ける感じでしたが、アメリカなどの芝レースでもしっかり結果を残していることから、昔のイメージのままだと痛い目を喰らうような気がします。
またダービーに勝つような馬は2000ギニーなどのマイル戦でもほぼ好走しているので、日本の馬場でもパンパンの良馬場でない限り対応できるような気がします。また距離も場合によってはクラッシックディスタンスに対応できるのでるので、父サドラーズウェルズの近親馬のヌレイエフぽいというのがイメージしては想像しやすいのかもしれませんね。
ジャパンカップでも少々時計がかかるようならあっさり勝つ馬も出てくるでしょう。